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『受胎告知』で画家デビュー!レオナルド・ダ・ヴィンチの独り立ち【連載No.3】

Last updated on 2020年7月2日

イタリア・ルネサンス期の芸術家であり、「万能の人」と称されるレオナルド・ダ・ヴィンチの真に迫る連載も、今回で3回目。

前回・前々回の記事を読んでいない方は、

こちらも合わせてチェックしてみてください!

さて、この記事では、当時のイタリアでも屈指の名門工房「ヴェロッキオ工房」での修行を経て、『受胎告知』で画家デビューするレオナルドに迫っていきます。

レオナルド・ダ・ヴィンチ作『受胎告知』

デビュー作ながら、レオナルドの個性と才能、そしてこだわりが遺憾なく発揮されています。

さっそく、『受胎告知』とレオナルドの個性・才能について深堀りしていきます!

そもそも、受胎告知とは?

バルトロメ・エステバン・ムリーリョによる『受胎告知』。

受胎告知とは、新約聖書「ルカによる福音書」に記されている、

大天使ガブリエルが、聖母マリアに対し、キリストを身ごもった(受胎した)ことを告げる(告知する)場面

のこと。

受胎告知は、美術作品としては非常に一般的なテーマとして知られており、レオナルド・ダ・ヴィンチ以外にも、様々な画家によって描かれています。

スクロヴェーニ礼拝堂に描かれている、ジョット・ディ・ボンドーネの『受胎告知』。

レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』

レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』も、大天使ガブリエルが聖母マリアに受胎を知らせる、定番の場面が描かれています。

しかし、絵を見て分かる以外のことは、判明していない部分が多い作品でもあります。

例えば、『受胎告知』の制作年について。

現在は1472年に制作されたという説が主流ですが、この年は推定であり、当時『受胎告知』が置かれていたサン・バルトロメオ聖堂の改装が1472年だったから(改装に合わせて飾られた?)という出来事から推測した制作年です。

また、そもそも制作者も、レオナルド・ダ・ヴィンチ本人かどうか曖昧だった時期すらあったのです。

現在はレオナルド・ダ・ヴィンチの作品として知られていますが、

制作者も諸説あり
  • レオナルド・ダ・ヴィンチがほぼすべてを描いた説
  • レオナルドとヴェロッキオ(レオナルドの師匠)の共作説
  • レオナルドとヴェロッキオ工房の同僚との共作説
  • ドメニコ・ギルランダーイオの作品説

など、制作者と、その人物がどの部分をどれくらい手掛けたのかなど、判明していない部分も少なからず残されています。

ドメニコ・ギルランダーイオとは、レオナルドと同時期に活躍したもう一人の万能の天才「ミケランジェロ」の師匠。

『ダヴィデ像』で有名な、ミケランジェロ・ブオナローティ。

未だに基本的な情報すら曖昧ながら、一般的にはレオナルドのデビュー作として認知されています。

その根拠は、『受胎告知』にふんだんに盛り込まれた、レオナルドならではの個性やこだわりにあります。

レオナルド・ダ・ヴィンチの『受胎告知』で押さえたい4つのポイント

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『受胎告知』には、彼らしい特徴が主に4点見つかります。

その特徴について、1つずつ見ていきましょう。

この4点を押さえたら、レオナルドの『受胎告知』だけでなく、彼本人の実像も掴めるはず!

1.自然を愛するレオナルドらしい、屋外の場面設定と幾何学的な構成

レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『受胎告知』の特徴は、場面設定が「屋外」であること。

当時のヨーロッパで主流だった受胎告知は、ほとんどが室内であり、神々しさが強調され、自然的なものは控えめに描かれていました。

ルーブル美術館に収蔵されている、グイド・レーニによる『受胎告知』。

しかし、ルネサンス期に入ると、芸術家たちは現実の世界にも目を向け始め、身近な景色を描くことに熱意を注ぎ始めたのです。

レオナルドもその影響を受け、草木が生い茂り、運河や山々が一望できる「庭」を場面として設定し、神々しくもありながらどこか身近な雰囲気を残す『受胎告知』を描いたのです。

レオナルドの『受胎告知』を改めて見てみると、屋外での受胎告知の独創性が実感できますよね。

また、自然との調和や均整の取れた構図など、いわゆる「幾何学」に対するこだわりが人一倍強いレオナルドは、

  • 背景の樹木
  • 足元の草木
  • ガブリエルとマリアの対照的な配置

などのどれもが均一にバランスを保っていて、ルネサンス作品の特徴である「自然」を描きながらも、バランスのとれた完璧な世界を描いており、神聖な雰囲気を残すことにも成功しています。

左右対称に描かれた樹木。

2.自然を基準に写実的に描く

自然が多く描かれているレオナルドの『受胎告知』ですが、それは天上の存在である大天使ガブリエルも例外ではありません。

レオナルドは、ガブリエルの翼を、一般的にイメージする荘厳なものではなく、実際に羽ばたけそうな機能美を持たせています。

「天使も鳥のように空を飛ぶのなら、鳥と同じ機能的な翼を持っているはず」

と考えるのが、幼少期から自然を観察し続け、修行時代で人体や動物の解剖学に関心を持ったレオナルドの、強いこだわりだったのです。

また、絵の背景には「空気遠近法」という技法も取り入れられており、レオナルドの観察眼の凄さと画家としての才能が垣間見える作品でもあります。

3.絵の中に隠されたユーモアのセンス

レオナルド・ダ・ヴィンチほどの巨匠と聞くと、一般的には「堅苦しい人物」というイメージがあることでしょう。

しかしレオナルドは、ユーモアのセンスに非常に長けており、比喩やブラックジョークの天才でもあったそうです。

そして『受胎告知』にも、その特徴が顕著に現れています。

例えば、大天使ガブリエルが左手に持っている白百合は、処女性のシンボルです。

これは、聖母マリアの純潔さを表しており、彼女に対する敬意が象徴されています。

また百合は、当時のレオナルドが住んでいたイタリアの都市「フィレンツェ」の紋章でもあり、フィレンツェに対する敬意も込めたダブルミーニングとなっています。

ただし白百合は、同時期に活躍した他の画家も描いており、レオナルドが発明したアイデアというわけではありません!

それでも、レオナルドはこの他にも知的なユーモアやなぞなぞを作品内に数多く残しているため、1つの作品からいくつもの発見ができる楽しみを見いだせる画家なのです。

4.聖母マリアの斬新な描き方

『受胎告知』のシーンは、先ほどご紹介した通り、大天使ガブリエルが、マリアにキリストを身ごもったことを伝える場面です。

普通、いきなり天使が目の前に現れて、そういう行為もしていないのに「あなたは子どもを身ごもっています」と言われたら、驚かない人はまずいないでしょう…。

事実、受胎告知を描いた他の画家は、マリアを驚かせたり、疑いを感じさせる表情を描いています。

ウフィツィ美術館に収蔵されている、サンドロ・ボッティチェッリの『受胎告知』。

しかし、レオナルドが描いた聖母マリアは、実に堂々としていて、大天使の存在も受胎告知も、すべてを受け入れているように見えます。

この達観した様子は、まさにキリストを身ごもった聖母にふさわしく、当時の人々を強く惹きつけたことでしょう。

個人的には、豊かな表情や仕草を得意とするレオナルドが描く、驚いた様子のマリア様も見てみたかったですが…。(笑)

次回「画期的すぎて修正された『ブノアの聖母』」に続く…。

『受胎告知』の独創性とレオナルドの才能は、しっかりと堪能していただけたでしょうか?

彼は、画家デビュー直後であっても、依頼主の要望に忠実に従うよりも、自分が描きたいものを描く、天才肌の画家だったようです。

そのこだわりが顕著に現れている作品が、『受胎告知』に続いて描かれた『ブノアの聖母』です。

どこが「画期的すぎた」のか、あなたは分かりますか…?

次の連載は、この『ブノアの聖母』を中心に紹介・解説していきます!

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